平和構築における外部支援の「成果主義」と短期志向:なぜ持続的な和平は困難を極めるのか、失敗要因とその教訓
はじめに:外部支援の光と影
紛争後の国家や社会において、外部からの支援は平和構築プロセスに不可欠な要素であることは広く認識されています。資金、技術、専門知識、そして政治的な働きかけは、インフラの再建、制度改革、治安の回復、経済活動の活性化など、多岐にわたる分野で重要な役割を果たします。しかしながら、これらの外部支援が常に意図した通りに機能し、持続的な和平に貢献してきたわけではありません。むしろ、外部支援のあり方そのものが、平和構築を困難にし、時には不安定化を招く要因となるケースが少なくありません。
本稿では、外部支援、特にドナーや国際機関に見られる「成果主義」や「短期志向」が、なぜ持続的な平和構築を阻害するのかに焦点を当て、その失敗のメカニズムを分析します。そして、過去の事例からどのような教訓が得られるのかを考察し、現在および今後の平和構築実務に活かすための示唆を提示します。
成果主義と短期志向がもたらす失敗要因
平和構築は、紛争の根本原因に対処し、社会の脆弱性を克服するための長期にわたる複雑なプロセスです。しかし、外部アクター、特に資金提供者であるドナー国や国際機関は、しばしば納税者への説明責任や政治的な要請から、短期間で目に見える成果を求める傾向にあります。この「成果主義」とそれに伴う「短期志向」は、平和構築の現場に以下のような負の影響をもたらす可能性があります。
1. 複雑な根本原因への取り組みの遅延または回避
紛争の根本原因は、歴史的な不平等、政治的周縁化、土地を巡る問題、資源アクセス、アイデンティティに基づく分断など、多岐にわたり深く根ざしています。これらに対処するには、長期的な視点に立ち、関係者間の対話、制度改革、社会規範の変化を促す地道な努力が必要です。しかし、短期的な成果を求める圧力のもとでは、選挙の実施やインフラの応急処置など、比較的短期間で達成可能で数値化しやすい目標が優先されがちです。結果として、紛争の真の原因が手つかずのまま残り、将来的な再発リスクを高めることになります。
2. 硬直的な計画と柔軟性の欠如
外部からの資金提供は、通常、事前に詳細に計画されたプロジェクトに基づいて行われます。しかし、紛争後の状況は流動的であり、政治情勢、治安、社会情勢は常に変化します。成果主義に基づいた計画は、往々にして厳格な予算とタイムラインを持ち、変化への迅速な適応を困難にします。計画外の事態が発生したり、当初の想定と異なるニーズが明らかになったりした場合でも、計画の変更が容易ではないため、現場の状況に合わない活動が続けられたり、重要な機会を逃したりすることが起こり得ます。
3. 現地アクターの主導権とキャパシティビルディングの阻害
持続可能な平和は、最終的にその社会の住民自身によって構築されなければなりません。外部支援は、現地アクターの能力を強化し、彼らがプロセスを主導できるよう後押しするべきです。しかし、成果主義と短期志向は、外部アクターが迅速な成果を出すために、自ら活動を主導し、現地のペースや複雑性を無視して外部のモデルを押し付けがちになります。これにより、現地NGO、コミュニティリーダー、政府機関などのオーナーシップが育まれず、外部資金が尽きた後に活動が立ち行かなくなる事態を招きます。また、短期的なプロジェクトサイクルでは、真のキャパシティビルディングに必要な時間とリソースが十分に確保されにくい傾向があります。
4. 報告書・評価プロセスと実態の乖離
成果主義は、ドナーへの報告のために「成功事例」を強調し、困難や失敗を過小評価するインセンティブを生み出します。現場で直面している真の課題や、想定外の負の効果(例えば、特定のグループが支援から取り残され、不満を高めるなど)が、報告書や評価書に十分に反映されない可能性があります。これにより、学習機会が失われ、将来のプロジェクトが過去の失敗から適切に学ぶことができなくなります。また、評価基準自体が短期的なものに偏っている場合、長期的な視点での真の進捗や持続可能性を測ることができません。
これらの要因は複合的に作用し、外部支援が投入されてもなお、紛争後社会の安定化が進まない、あるいは新たな脆弱性が生じるといった結果を招くことがあります。
失敗事例からの教訓と実務への示唆
過去の多くの平和構築現場における経験は、成果主義と短期志向の罠から逃れるための重要な教訓を与えています。これらの教訓は、国際協力NGO職員が自身の活動やドナーとの関わりの中で、より効果的で持続可能な貢献をするための示唆となります。
1. 「成果」の再定義と長期的な指標の設定
短期的なアウトプット(例:開催されたワークショップ数、配布された物資量)やアウトカム(例:参加者の知識向上)だけでなく、より長期的な視点での「成果」を重視する必要があります。これは、紛争の根本原因への取り組みの進捗、現地アクターの能力向上、社会的な信頼関係の構築、制度の実効性など、質的な変化や構造的な変化を捉える指標を設定することを含みます。ドナーとのコミュニケーションにおいても、短期的な成果だけでなく、長期的なビジョンとその達成に向けた中間指標やリスクについて、率直かつ丁寧に説明することが重要です。報告書や提案書において、単なる数値目標の達成度合いだけでなく、活動がどのように長期的な平和構築目標に貢献するのか、あるいは阻害しうるリスクをどのように管理するのかを論じる必要があります。
2. 柔軟性と適応性を組み込んだ計画
紛争後環境の不確実性を前提とした計画立案が必要です。これには、定期的な状況分析(コンフリクト分析の更新など)に基づき、活動内容やアプローチを柔軟に変更できるメカニズムを予算や契約に組み込むことが含まれます。予期せぬ事態への対応や、新たな機会を捉えるための余剰金や迅速対応ファンドの必要性をドナーに提起することも検討に値します。計画段階で、想定されるリスクとその対処法を具体的に記述し、リスクの顕在化に応じて計画を調整するプロセスを明記することも有効です。
3. 現地アクターとの対等なパートナーシップの構築
外部アクターが活動を主導するのではなく、現地NGO、コミュニティ組織、地方政府などが真にオーナーシップを持てるような関係性を築くことが不可欠です。これには、彼らの優先順位や既存の能力、伝統的な紛争解決メカニズムなどを深く理解し、それを活動設計に反映させる努力が必要です。彼らのキャパシティビルディングは、短期的な研修だけでなく、長期的なメンタリングや共同作業を通じて、徐々に行われるべきです。資金提供の形態においても、現地組織への直接的な資金提供や、彼らが自律的に活動を展開できるような柔軟な支援を模索することが重要です。
4. 失敗からの学習文化の促進
失敗は平和構築プロセスにおいて避けられない一部です。重要なのは、失敗を隠蔽するのではなく、そこから学びを得て次の活動に活かす文化を組織内外で醸成することです。定期的な内部・外部評価を、単なるアカウンタビリティのためだけでなく、学習のための機会として捉える必要があります。現場での困難や想定外の結果についても、関係者間で正直に共有し、その原因と対策について議論する機会を設けることが、より良い実践に繋がります。ドナーに対しても、成功事例だけでなく、困難や教訓についても誠実に報告し、対話を通じて相互理解を深める努力が求められます。
まとめ
平和構築における外部支援の「成果主義」と短期志向は、その意図とは裏腹に、持続的な和平の達成を阻害する構造的な課題を抱えています。短期的な成功を追い求めるあまり、紛争の根本原因への対応が遅れ、現地アクターのエンパワメントが阻害され、柔軟性のない計画が現場の状況に対応できなくなるなどの問題が生じます。
これらの課題を克服し、外部支援が真に平和構築に貢献するためには、関係者全体での意識改革が必要です。ドナーは長期的な視点を持ち、より柔軟な資金提供のあり方を模索すべきです。実施機関である国際協力NGOは、ドナーの圧力に屈することなく、現場の現実と長期的な目標に基づいた、より誠実で適応性のある計画を立案し、実行する必要があります。そして何より、現地アクターとの対等なパートナーシップを築き、彼らが自らの手で平和を構築できるよう最大限に支援することが、持続可能な平和への唯一の道と言えるでしょう。過去の失敗事例から学び、その教訓を現在そして未来の実務に活かすことが、私たちに課せられた重要な責務です。